2-35
18.自己完結幻想
中島陽一のこれまでの豆絵本作品には、「November」
と「July」がある。周期性を考えれば、次に作るべきは当
然「March」である。
2001年3月14日、中島は「よし、3月のお話を作
ろう!」と考え、「March」のアイデアスケッチを描きか
けてあっさり挫折し、ついでに冗談半分でなぐり描きした
別のイメージ群が繋がって、4月の物語「April」が生ま
れた(辻褄はそう都合良くは合わない)。
それから中島は少し考えた。本作りの過程を残らず自分
の部屋でやりとげるのがDTPである。今回こそパソコン
を絵本作りのために使いたい。製作過程に画像編集ソフト
を活用したいが、むやみにCGらしさを強調した作品にな
るのは本意でない。手描きの絵を生かしたい。
7月に、アニー岡本の企画編集による自費出版雑誌のた
めに、中島はアクリルガッシュでモノクロームのイラスト
をいくつか描く機会があった。そのイラストを単色印刷の
原稿にするために、フォトショップで網点に変換するとい
う方法を使った。では、階調のある鉛筆画を描いて、同じ
方法を使うのはどうだろう?しかも、それを豆絵本の小さ
な画面に配置するのである。面白そうだ。
|
|
2-36
9月、ケント紙に仕上がりの倍のサイズのトンボを打ち、
三菱Hi−uniで下絵を描き始める。これをスキャナー
でパソコンに取り込んで50%に縮小し、網点に変換する
という段取りだ。
絵を出力するためには、どうしてもプリンターが要る。
10月、中島は大森裕子の部屋で見せてもらったアルプス
電気のMD−5500を気に入り、購入に踏み切った。そ
れからはひたすら下絵を描き、取り込んでは加工し、印刷
しては束見本を作り、というのを繰り返しながら、完成度
を煮詰めていった。
勝手なことに中島は、円道寺清光の考えたキャラクター
を物語に無断で登場させ、後にかなり描き進めたところで
初めて本人の了解をもらった。円道寺は快く許可してくれ
たばかりか、いくつものイメージスケッチを提供してくれ
た。感謝に絶えない。
手元のプリンターではA3サイズの原稿が出力できない
ので、たびたびたまだまさおの部屋にお邪魔しては、エプ
ソンのプリンターを補助的に使わせてもらった。印刷には、
セルフコピーサービスの店、キンコーズ上野店を利用した。
第15作「April」は、自己完結する絵本作りを夢見つつ、
2002年4月、多くの人々の助けを借りて完成した。
|