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16.月蝕の夜
97年7月26日、銀座の佐藤由美子個展「ホントイフ コ」会場で、中島は佐藤に一秒書房からの豆本の出版を持 ちかけ、佐藤は是非やろうと請け合った。会場の閉鎖時間 が迫り、浮き足立った2人は興奮ぎみに本の話をした。し かし具体案は出ず、計画は2人の心に潜在した。
佐藤は以前から、本を自分の作品の発表形態と見なし、 専門の版種“リトグラフ”を使った刷りを、本造りに応用 していた。その独特のブックデザインを、一秒書房の豆絵 本シリーズに加えてはもらえたらすてきだ、と考えた中島 は、本の内容は佐藤に一任し、自分は編集者兼製本家のつ もりになった。
計画が再浮上するのは98年の春からで、主に郵便での 打ち合わせにより進展した。
佐藤は、当初“カヘルノミミ”という絵本を着想した。 このアイデアがふくらんで、 99年9月の個展「本とコト バ」において、佐藤由美子の手になる2冊1セットの豆本、 “カヘルノミミ”と“月ニカエル”が公開された。この2 冊を、“一秒書房版”と区別して、“オリジナルバージョ ン”と呼ぶ。
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“オリジナルバージョン ”は、金色コートのボール紙ケ ース入り。グレーの両面コート紙の表紙で、本文は和紙。 すべてリトグラフで刷られている。10セット限定で既に 品切。 御覧になりたい方は、佐藤由美子によるwebページ を参照されたい(「佐藤由美子の本」のコーナー)。
「向日葵文庫ホーム」
http://www.himawari.green.jp
“一秒書房版”「月ニカエル」はというと、濃赤色のハ ードカバーの表紙に、淡赤色の本文用紙(“オリジナルバ ージョン ”と異なる点は他にもあるが、比較する喜びを享 受できる幸運な人は、この世に何人いるのだるうか?) 。
2000年2月、市の割の工房で佐藤が印刷を行った。 中島が製本を担当し、8月に出版。限定32部、実に残 念なことに、絶版品切である。
第14作、「月ニカエル」は、本造りに意欲的な作家の 理解と協力を得て完成した、ゲスト依頼豆絵本の第2作目 である。
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