2-31
16.月蝕の夜
 97年7月26日、銀座の佐藤由美子個展「ホントイフ
コ」会場で、中島は佐藤に一秒書房からの豆本の出版を持
ちかけ、佐藤は是非やろうと請け合った。会場の閉鎖時間
が迫り、浮き足立った2人は興奮ぎみに本の話をした。し
かし具体案は出ず、計画は2人の心に潜在した。   佐藤は以前から、本を自分の作品の発表形態と見なし、
専門の版種“リトグラフ”を使った刷りを、本造りに応用
していた。その独特のブックデザインを、一秒書房の豆絵
本シリーズに加えてはもらえたらすてきだ、と考えた中島
は、本の内容は佐藤に一任し、自分は編集者兼製本家のつ
もりになった。  計画が再浮上するのは98年の春からで、主に郵便での
打ち合わせにより進展した。  佐藤は、当初“カヘルノミミ”という絵本を着想した。
このアイデアがふくらんで、 99年9月の個展「本とコト
バ」において、佐藤由美子の手になる2冊1セットの豆本、
“カヘルノミミ”と“月ニカエル”が公開された。この2
冊を、“一秒書房版”と区別して、“オリジナルバージョ
ン”と呼ぶ。
 
2-32
 
 “オリジナルバージョン ”は、金色コートのボール紙ケ
ース入り。グレーの両面コート紙の表紙で、本文は和紙。
すべてリトグラフで刷られている。10セット限定で既に
品切。 御覧になりたい方は、佐藤由美子によるwebページ
を参照されたい(「佐藤由美子の本」のコーナー)。          「向日葵文庫ホーム」 http://www.himawari.green.jp    “一秒書房版”「月ニカエル」はというと、濃赤色のハ
ードカバーの表紙に、淡赤色の本文用紙(“オリジナルバ
ージョン ”と異なる点は他にもあるが、比較する喜びを享
受できる幸運な人は、この世に何人いるのだるうか?) 。  2000年2月、市の割の工房で佐藤が印刷を行った。
中島が製本を担当し、8月に出版。限定32部、実に残
念なことに、絶版品切である。  第14作、「月ニカエル」は、本造りに意欲的な作家の
理解と協力を得て完成した、ゲスト依頼豆絵本の第2作目
である。
   目次   
  人名事典をひらく  

  もういい?