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11.異界の呼び声

 藁谷千鶴は、かつて中島と同じ美術予備校に在籍したこ
とがあり、家も近所である。96年11月、近所のコンビ
ニエンスストアに、カラーレーザープリントのコピー機が
導入されたので、一緒にフルカラーの絵本でも作ろうかと、
気楽な気持ちで始めた合作だった。  この合作は、出だしからはかどらなかった。“色を使う”
ということ以外に、しばらくは何のアイデアも浮かばなか
ったのである。とはいえ、急ぐこともあるまいと、おしゃ
べりに興じながら、藁谷は厚手の水彩紙のスケッチブック、
中島はいつものMARUMANのF6判スケッチブックに、
色鉛筆やらアクリル絵の具やらサインペンやらを使って、
沢山のアイデアスケッチを描きまくった。  明けて97年1月、取り留めのなかったおしゃべりと膨
大なアイデアスケッチの中から、一つのキャラクターが出
現する。それが、「記憶の彼方に置き去りにされた赤い熊
のぬいぐるみ」だった。
 
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 描き進むうちに2人は、強烈な想念が自ら物語ろうとし
て、描き手を突き動かすかのように感じるようになった。
それは、自分らがおはなしを作っているのではなく、遠く
から受信した呼び声を視覚化しているかのような体験だっ
た。  第9作「闇の閤」は、ちょっと怖くて、切羽詰まるよう
な、根気の要る8ヶ月間を費やして完成した。
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