2-21
11.異界の呼び声
藁谷千鶴は、かつて中島と同じ美術予備校に在籍したこ とがあり、家も近所である。96年11月、近所のコンビ ニエンスストアに、カラーレーザープリントのコピー機が 導入されたので、一緒にフルカラーの絵本でも作ろうかと、 気楽な気持ちで始めた合作だった。
この合作は、出だしからはかどらなかった。“色を使う” ということ以外に、しばらくは何のアイデアも浮かばなか ったのである。とはいえ、急ぐこともあるまいと、おしゃ べりに興じながら、藁谷は厚手の水彩紙のスケッチブック、 中島はいつものMARUMANのF6判スケッチブックに、 色鉛筆やらアクリル絵の具やらサインペンやらを使って、 沢山のアイデアスケッチを描きまくった。
明けて97年1月、取り留めのなかったおしゃべりと膨 大なアイデアスケッチの中から、一つのキャラクターが出 現する。それが、「記憶の彼方に置き去りにされた赤い熊 のぬいぐるみ」だった。
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描き進むうちに2人は、強烈な想念が自ら物語ろうとし て、描き手を突き動かすかのように感じるようになった。 それは、自分らがおはなしを作っているのではなく、遠く から受信した呼び声を視覚化しているかのような体験だっ た。
第9作「闇の閤」は、ちょっと怖くて、切羽詰まるよう な、根気の要る8ヶ月間を費やして完成した。
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