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15.ワンダーランド
 ルイス・キャロルの有名な文学作品、「不思議の国のア
リス」「鏡の国のアリス」がある。 中島陽一は大学生の頃、
初めてこれらを読み、強い印象を受けた。  この豆絵本の原形となったイラストは、中島の落描き帳
の、B5無地の大学ノートの中にある「不思議の国…」の、
かなりいい加減な鉛筆画である。むろん中島は当時、この
絵で絵本を造る気などさらさらなかった。  97年8月、落書き帳を偶然目にしたアニー岡本が鉛筆
画のコピーを所望し、それを色鉛筆で着色した。以後、岡
本は他人の絵に色を着けるのに熱中するようになり、中島
は自分の絵が色彩によってがらりと変化するのに興を覚え
た。  その後、2人は学校を卒業し、「アリス」がらみの合作
は、しばらくお留守になっていた。  99年4月、中島は思い立って、「鏡の国…」の鉛筆画
を描き、今度は自分から岡本に着色を依頼した。
そして、2年前のイラストと合わせて眺めた時、これを一
冊の豆絵本にすることを初めて思い付いた。  岡本の彩色を再現するために、オフセット印刷に挑戦し
 
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てみたくなった。それには、パソコンで印刷データを作成
する必要がある。そこで自宅にパソコンを持ち、グラフィ
ックデータを扱う環境にあるたまだまさおの協力をあおい
だ。  たまだはパソコンに疎い他の2人に代わって、試行錯誤
してデータを作製した。岡本の着色したイラストをたまだ
の部屋でスキャニングし始めたのが7月。データを組み上
げて版下を作り、出力センターに入稿し、ポジフィルムを
受け取ったのは2000年1月のことだった。  2月、中島はアルバイト先の印刷屋にフィルムを持参し
た。さいわい中島は当時、4色印刷機のオペレータだった
ので、自らの手でオフセット印刷を手掛けた。   その後、中島は印刷屋を円満退社し、ようやく製作に専
念する時間を得た。豆絵本が出版できたのは、原点の落描
きから数えて約3年後、2000年7月のことである。  第13作「Alice in a Miniaturebook」は、ただの落描き
も、物好き達の手にかかると絵本に化けたりしかねない、
という極端な例である。
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